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はじめに
 九州大学基幹教育院 野口高明のホームページにようこそ。私は平成26年(2014年)4月に基幹教育院にやってきました。基幹教育院では地球惑星科 学の授業を担当すると共に,基幹教育セミナー,課題共学セミナーというアクティブラーニング授業と演習を担当しています。また,理学研究院の地球惑星科学 専攻の授業も担当しています。理学研究院地球惑星科学専攻所属の大学院生は,私の研究室で研究することができます。

 私はいろいろな地球外物質を鉱物学にもとづいて研究しています。特 に,透過型電子顕微鏡を使って,マイクロメートル・ナノメートルという極微の世界か ら,太陽系の成り立ち・太陽系の天体の成り立ちを垣間見ようとしています。詳しいことは研究のページで書いています。

 2015年2月には,こちらの大学に持ってきた実験装置・分析装置を一通り使えることができるようになりました。1年近くかかりましたが,研 究が進められる状態にもってこれました。まだ,私の研究室に所属している大学院生はいませんので,一人で研究しています。このホームページを見て,私の研 究室で研究してみたいという 学生さんが現れてくれることを期待しています。
 
4種類の地球外物質
 地球外物質は,太陽系のいろいろな天体起源の物質です。具体的には,隕石宇宙塵探 査機が地球に持ち帰った試料宇宙ステーションの船外で捕獲された物 質の4種類があります。

 隕石は地球に落下(本当は衝突)した他の天体のかけらのことで,約6万 5千個見つかっています。そのほとんどすべて(100個程度は月や火星起源とされています)は,火星と木星の間に数十万個以上も発見されている小惑星から やってきたと考えられています。小惑星は木星の大きな重力のため,惑星に成長できなかった天体のかけらであり,太陽系初期の情報を保持している天体です。 隕石は太陽系の化石のようなものであるということです。隕石は年間数千トンが落下してきていると考えられていますが,ほとんどが海や無人の土地に落下する ため,落下後に回収される数はごく限られています。隕石の多くは,南極大陸の氷の上か,北アフリカの砂漠などで見つけられています。

 宇宙塵(しばしば宇宙人と間違えられます)は大きさ約2ミリよりも小さ な地球上で回収される地球外物質のことです。宇宙塵は隕石のおよそ10倍の数万トンが1年間に落下してきていると考えられています。しかし,とても小さい ため,普通の環境では莫大な量の地球の塵(人工物,砂や泥の粒)に埋もれてしまい,見つけることはできません。1950年代に全国の高校の理科クラブで宇 宙球粒の採集というのが行われたのですが,そのほぼ全ては工場から放出された溶接時に飛び散った金属のしぶきが固まったものです。現在でも,こうした古い 文献を見つけてしまったため,同じような試みをしたいという相談がありますが,そうした試みは労多くして益なしですので,ここでも再度それを強調しておき たいと思います。

 宇宙塵は相対的に地球の塵が少ないところで探します。採集する場所によって方法が全く異なるため,別々の名称がついています。まず,成層圏の高度20キ ロを飛行する特殊な飛行機(冷戦時の高高度偵察機を流用したもの)を使って捕集されるものを惑星間塵(Interplanetary dust particles: IDP)と いいます。南極の氷(昔に降った雪)や現在の雪に含まれる微隕石 (Micrometeorites: MM)と いうものもあります。私たちのところでは,南極観測隊が南極で採集してきて下さった雪を融解・ろ過し,フィルタ上に残った微粒子から,微隕石を探して研究 しています。そのほかにも,深海底の泥の中から,磁性を帯びた微小な球粒を回収して分析することが1970年代までは行われていました。

 探査機が地球に持ち帰った試料(リターンサンプル)としては,1969 から1972年にかけて行われたアメリカのアポロ11号から17号で回収された月試料,1970年から1976年にかけて行われたソ連のル ナ16,17,24号で回収された月試料,2006 年にNASAのスターダスト探査機によって回収された81Pヴィ ルト第2彗星の塵,2010年にJAXAのはやぶさ探査機によって回収された,小惑星(25143)イトカワの塵があります。私の研究室で は,ソ連の持ち帰った試料以外は,全て研究したことがあります。

 宇宙ステーションの船外で捕集された物質(地球低軌道捕獲試料)と いうのは,一般にはほとんど知られていないものかと思います。1986年から2001年まで運用されていたソ連・ロシアのミール宇宙ステーションの船外に は,Orbital Debris Collector (ODC)と呼ばれる,地球近傍に到達した微小な地球外物質であるマ イクロメテオロイドや宇宙ゴミであるスペースデブリを 捕獲する装置が1997年から1年半にわたって取り付けられ,捕獲された微粒子の分析が行われました。1999年からは国際宇宙ステーションの建設が始ま りました。2000年から2005年まで,ロシアのサービスモジュール船外にJAXAのSM/MPAC & SEEDという装置が取り付け られ,最長5年間にわたってマイクロメテオロイドやスペースデブリが捕獲されました。私たちのところではこのSM/MPAC & SEEDの一部として取り付けられていたシリカエアロジェル(極 低密度のシリカゲルの一種で,ODCも同様のものを使っていた。のちに,上述のスターダスト探査機にも使われた)から微粒子を取り出し,分析を行いまし た。さらに,日本のサービスモジュールであるきぼうの船外に取り付けられたJEM/MPAC & SEEDの一部として取り付 けられていたシリカエアロジェルから微粒子を取り出し,分析を行っています。

隕石と宇宙塵の違い
 隕石の80%以上は普通コンドライト隕石という 隕石が占めています。小惑星イトカワを作っている物質も普通コンドライト隕石の一種であるLLコンドライトとそっくりです。小惑星イトカワはS型小惑星というグループに属しています。イトカワの塵の研 究によって,普通コンドライト隕石はS型小惑星由来であるこ とが明らかになりました。但し,逆は真ではないと考えられています。すなわち,全てのS型小惑星が普通コンドライト隕石と同じ物質からできているのではな いということです。

 小惑星のなかには,鉱物・有機物・水の氷が集まって小天体を形成した後に,氷が溶けてもともと存在していた鉱物と反応(水質変成作用と 呼びます)し,含水鉱物とよばれる鉱物を作ったものがあります。含水鉱物は結晶中に水を結晶水やヒドロキシ基の形で水を含む鉱物で,水質変成作用を受けた 隕石には蛇紋石やサポナイトと呼ばれる含水鉱物が含まれています。はやぶさ2が調べようとしている1999JU3という小惑星は,このような小惑星(C型小惑星)に属しています。そして,C型小惑星が地球 に水や有機物を供給したのではないかとも言われています。隕石の10%以下を占める炭素質コンドライト隕石の,そのまた一部であるCIコンドライト隕石や CMコンドライト隕石はC型小惑星起源ではないかと考えられています。

 不思議なことに,微隕石や惑星間塵には,この水質変成作用を受 けたCIコンドライト隕石,より稀なCRコンドライト隕石,特異な炭素質コンドライト隕石であるタギッシュレイク隕石によく似たものが高い頻度で含まれま す。CMコンドライト隕石に似たものはかなり少ないです。逆に,隕石では大多数を占める普通コンドライト隕石に似たものは少なく1割程度し か含まれません。

 ほうき星ともいわれる彗星(正確には短周期彗星)は太陽系の外縁部(30天文単位よりも遠く)で作られた,鉱物・有機物・氷からなる小天体と考えられて います。2006年に,ヴィルト第2彗星の塵をNASAのスターダスト探査機が持ち帰って分析するまでは,太陽系を形成した原材料物質からできていると予 想されていました。しかし,ヴィルト第2彗星塵には上記の炭素質コンドライト隕石に含まれている物質(すなわち太陽から数天文単位までの場所で形成された 物質)も含まれていました。それで,現在では,彗星は太陽系のい ろいろな場所で形成された物質が集まって作られた天体であり,その形成後はほぼ変化していない天体と考えられています。上で説明した各種の炭素質コンドライト隕石とは違って,氷が大規模に溶けて鉱物と反応した痕跡 はほぼ見られないため,隕石よりも始原的(太陽系形成時の状態を留めている)な物質と考えられます。

 宇宙塵(微隕石・惑星間塵)には彗星塵と考えられるものがかなりの割合で含まれて います。宇宙塵を研究することで,太陽系の原料と なった物質の特徴,太陽系のごく初期に原始太陽系円盤で作られた物質の特徴,原始太陽系円盤内での出来事を解明できる可能性があります


雑記


 九州大学に赴任する前には,茨城大学理学部に勤めていました。2009年以降の生活は「はやぶさ」一色であったといっても過言ではありません。 2009年から,JAXA相模原キャンパス内に建設された惑星物質受け入れ設備(以下,キュレーション施設)で,JAXAスタッフと,私と同様に他の大学 から派遣された2名の方々と共に,イトカワの試料が地球に持ち帰られた場合に備えて,試料の取り扱いトレーニングと装置の改良を行い,2010年6月のは やぶさ帰還後は,イトカワ試料の探索をキュレーション施設で行い,イトカワの砂つぶを発見することができました。さらに,それらの初期分析チームに加わ り,私は小惑星イトカワの「宇宙風化」という現象について研究しました(まだ研究は続いています)。この辺りのことは,山根一眞さんの著書をご覧になっ てください。なお,このイトカワの宇宙風化の研究をさせてもらえたおかげで,小惑星の一つに (23741) Takaakiと命名してもらえました。なかなかありそうにないことで,大変ありがたく思っています(この小惑星について観測・撮影してくださる方を探し ています)。
 はやぶさ2については打ち上げ前に手伝うくらいでしたが,はやぶさ2に関係した随筆を西日本新聞に掲載していただけま した。はやぶさ2帰還時にはほぼ還暦なので,持ち帰られる試料の研究の主力メンバーではないとは思いますが,研究してみたいと思っています。

 こちらに来てから投稿した論文のひとつでEarth and Planetary Science Lettersに掲載された論文が,Science誌のWeb siteであるScience.comに取り上げられました。そのおかげで,新聞・雑誌や科学技術振興機構等のWeb siteで取り上げてもらえました。さらに,Science.comには,The top 10 scientific images of 2014に選んでもらえました。Scienceに掲載された論文でもないのにこうした扱いをしていただけて大変うれしかったです。

2015/04/15 作成