現在の研究テーマ

微隕石
 2004年から南極のドームふじ基地の近くで採集された表層雪から微隕石を探す試みを始め,極地研究所雪氷部門の本山先生と相談しながら,表層雪から微 隕石を探す手順を完成しました。雪を採集する方の衣類に付着する塵が混入するだけで微隕石の発見は困難を極めます。大きさ20ミクロンよりも大きな微隕石 の場合,雪1kgに1個含まれるかどうかという少なさです。2010年度から2014年度まで,東京大学の永原先生の基盤研究(S)の一環として,微隕石に含 まれる高分子有機物(炭素質物質といいます)の分析を行うための微隕石の加工方法の開発も行ってきました。

 さきに,ホームのところで説明しましたように,微隕石は彗星や水質変成作用を受けた小惑星起源の始原的な微小粒子であり,初期太陽系のできごとを研究す るには適した試料です。 IDP(惑星間塵)よりもかなり大きいものが多く,IDPよりも手に入れやすいという特徴があります。

 これら微隕石から,(1) 小惑星帯に彗星的な氷天体は存在しているか,(2) 彗星核における母天体過程(他天体の衝突の証拠,加熱や氷の融解の有無)を探っていきたいと考えています。

(1) 小惑星帯に彗星的な氷天体は存在しているか:2006年以来,小惑星帯に彗星的活動(質量放出)を起こす小惑星(活動的小惑星Active asteroidsあるいはメインベルト彗星Main-belt comets)が見つかっており,これらの天体が果たして小惑星帯に紛れて存在する彗星的氷天体なのか,どうかが議論の的となっています。また,巨大惑星 の軌道が現在の位置に落ち着くまでには大きな軌道の変化があったと考えられるようにもなっています。そして,この巨大惑星の軌道変化に伴い,巨大惑星の軌 道の間に存在していた無数の氷小天体は蹴散らされて,一部は小惑星帯に存在するようになったと考えられています。これらの観測と理論を,微隕石を分析する ことから明らかにしていきたいと考えています。

(2) 彗星核における母天体過程(他天体の衝突の証拠,加熱や氷の融解の有無):2005年にテンペル第1彗星に衝突したNASAのディープインパクトが衝突前 に撮影した画像には,クレーターや妙に平らな領域が写っています。これらは他の天体の衝突によってできたクレーターや,なんらかの母天体過程を示すものと 考えられます。こうした彗星核での母天体過程の証拠を保持した彗星塵を微隕石から見出し,どのような過程が起きたか明らかにしたいと考えています。 NASAのスターダスト探査機が持ち帰ったヴィルト第2彗星塵からは水が関与したのではないかと考えられる鉱物が見つかってはいますが,確実な母天体での 過程を保持した試料は見つかっていません。母天体過程によってできたと思われる物質を彗星塵から見出し分析することで,彗星核のような氷小天体で太陽系形 成以来どのようなことが起きていたか明らかにしたいと考えています。
 
 
宇宙風化
 月や小惑星イトカワのような大気の無い天体の表面は,大小さまざまな隕石の絶え間ない衝突,太陽からのプラズマの流れである太陽風,あるい は,太陽系外 からの宇宙線などに常にさらされ続けている過酷な環境にあります。特に,月の試料を使った研究により,月表面物質の変化,特に,表面の色や太陽光の反射の 仕方が変化する(「宇宙風化」といいます)の仕組みの解明は,アポロが地球に試料を持ち帰ってきてから30年近くかかりました。その主な原因は,微小隕石 の衝突により衝突地点の岩石・鉱物が高温になって蒸発したものが再び周囲にごく薄い膜(0.1ミクロン)としてコーティングし,そのごく薄い膜の中にナノ サイズの金属 鉄極微粒子が形成されるためです。
 
  小惑星と隕石は同じ起源と思われてきましたが,小惑星表面の色や太陽光の反射の仕方は,対応すると思われる隕石のものとは異なっています。この原因も月と 同じように宇宙風化の影響であると考えられてきました。

 私の研究室を中心とする,はやぶさ初期分析試料の研究により,小 惑星イトカワでの宇宙風化層の構造は月のものとはかなり異なることが明らかになりました。月と同じように微小隕石 の衝突により衝突地点の岩石・鉱物が高温になって蒸発したものが再び凝縮してできた層はあるにはあるのですが,それは0.015ミクロン以下しかなく,ナ ノサイズの硫化鉄極微粒子がしばしば見られます。その層の下には結晶構造が部分的に壊され,壊されたところにナノサイズの金属鉄極微粒子が形成されている ことがわかりました。そして,この2種類の層の境界付近から火ぶくれのような膨らみ(ブリスターと呼びます)が作られていることがしばしばありました。こ れらの組織から,小惑星イトカワの宇宙風化では太陽風が主な要因であることを示しました。この説は,長年,月の研究を行ってきた研究者と の間に大きな論争を引き起 こしています。

  宇宙風化についてのより高度な理解を目指して,私と共同研究者(広島大学の日高先生,九州大学の岡崎さん,茨城大学の木村先生)は,月の宇宙風化自体も複 数の研究手法 を用いてもっと精密に検討し直すべきだと考えました。大変幸いなこと に,平成24年度より基盤研究(A)に 採択していただけたため,鉱物学と地球化学的手法を個々のいとかわの粒に対して行う方法を開発できました。現在,実際の資料で分析を行っているところで す。


マイクロメテオロイド
 微小な地球外物質であるマイクロメテオロイドが大気圏外で捕獲されて研究されていることをホームで説明しました。このページの宇宙塵のところで述べた IDPや微隕石と同じようなものが大気圏外でも捕獲されることが期待されますが,実際はそれほど単純ではありません。IDP や微隕石と比べると全体的により結晶の大きさが大きいものが多いです。また,全体的に2価のFeに富む鉱物が多いです。しかし,こうした特徴は試料採集の 仕方にもよるかもしれませんし,研究された試料数が少ないための統計的に意味がないという反論もあります。そこで,平成26年度より挑戦的萌芽研究に 採択していただけたため,シリカエアロゲル以外の捕獲媒体(ポリイミドフォーム)を使って捕獲されたマイクロメテオロイドの分析を始めようとしています。 現段階はポリイミドフォームの中に捕獲された微粒子がどのように分布しているかを可視化する方法をJAXA筑波宇宙センターの木本さんと模索中です。最 終的には微粒子を取り出して分析します。また,金にマイクロメテオロイドが命中して作られたクレーター中の残留物の分析も検討しています。


その他の研究
 隕石は太陽系が形成された45.6億年前から数千万年以内に作られたものが多くを占めます。隕石は,作られた後に大規模に融解していない未分化隕石と溶 融して岩石質の部分と金属質の部分に分かれた分化隕石に大別されます。未分化隕石の中でも,石になってからほとんど変化していないものは片手ほどの数しか 見つかっていません。そういう隕石は1990年代にかなり詳しく調べられていますが,今まで自分が研究してきた微隕石などの微小な地球外物質と比較しなが ら再検討したいと考えています。
 未分化隕石の多くは水が関与していないにもかかわらず,硬い石になっています。そういう隕石はどうやって石になったのかという古くからあるテーマについ ても検討したいと考えています。


2015/04/15 作成