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心理系科目

基幹教育院准教授 心理系専門チーム長 山田祐樹
 
 心にかかわるあらゆる事柄を研究するのが心理学です。基幹教育では文系ディシプリン科目の「心理学入門」にてその一端を紹介しています。「入門」とは言っても、この授業では特定の決まった内容を全教員が共通して教えているわけではありません。教員間で、ある程度の重なりを保ちつつもそれぞれの専門分野に引き寄せた内容を提供しています。「心理学という学問として知っておくべき最低限の基礎を共通して教えないのか、けしからん!」というお声もあるかもしれませんが、これにはいくつかの理由があります。
 まず、先述のように心理学は(ヒトに限らず)心にかかわるあらゆる事柄を対象としますので、極めて広大です。細分化された各分野それぞれに基本的なトピックは存在しますがそれらを全て教示することは不可能です。
 それに加えて、悲しいことに心理学は学問としてまだ若く、分野間を通底する大きな理論や原理が存在していません。したがって何か特定の事柄を知っておけば全ての心理学分野での理解を深められるということもありません。この心理学における多様性と並行性は担当教員構成を見ても示唆的で、基幹教育院、共創学部、芸術工学研究院、人間環境学研究院(心理学講座・臨床心理学講座)という実に5つもの部局に分かれて所属しています。
 そして最後に、これが最大の悩みなのですが、心理学では研究結果の再現可能性問題が指摘されており、今まさに検証の真っ只中にあります。これにより、「さすがにこれは鉄板の話だろう」とみんなが信じてきた有名知見が実は非常に疑わしいものだったというケースが頻発していて、何を教えたら嘘にならないかを見極めるのに汲々としているのです。
 ・・・授業紹介でここまでお示しする必要はないかもしれませんが、これこそがまさに実態であり、少なくとも私はそれを含めた「心理学の正確な姿」を学生の皆さんに知ってもらうことに意義があると考えています。そして、受け取った学生の中に、「ということは、今の心理学には発展させる余地 (チャンス) がまだまだ膨大に残っているな」と考える人が現れることを強く期待しています。あるいは、心理学には「見えない心」を知るための測定技法の研鑽を偏執的なまでに極めてきた歴史があり、他領域に応用できるものも存在します。受講する学生のほとんどはその後に心理学を専門とはしませんが、そうした心理学的な研究手法・態度が各自の専攻での発展に繋がるきっかけになれば幸いです。
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