基幹教育院 教授 田村茂彦
基幹教育における生物学系科目のひとつとして、「生命の科学A」が開講されています。本科目は教養系のクォーター科目で、各授業担当者の専門分野を題材にしながら、ミクロな視点から生命現象を理解するための基礎を学ぶ講義です。授業では、生物に共通する代謝反応、遺伝子や細胞レベルでの自己複製、さらには生物の複雑な構造に支えられた生命・細胞機能について扱います。高校で生物学を履修していない受講者にも配慮し、専門用語や概念はできるだけ丁寧に解説しながら、生命科学の考え方そのものを理解してもらうことを目指しています。私が担当する冬学期・月曜1限では、遺伝性の代謝疾患や身近な病気・生命現象を題材に、「遺伝子がどのように生命現象を支配しているのか」を具体例を通して考えていきます。病気という切り口を用いることで、抽象的になりがちな遺伝子や細胞の話題を自分のこととして捉えてもらえるよう工夫しています。また、この講義で特に大切にしているのが、受講者の皆さんとの双方向性的なやり取りです。授業中に質問をすることは決して簡単なことではありません。そこで本講義では、「コメントスクリーン」というアプリを活用し、匿名のまま、疑問に思ったことをその場で気軽に質問できる仕組みを取り入れています。パソコンを介したやり取りではありますが、リアルタイムで意見や質問が交わされる授業は、教員にとっても非常に刺激的で、楽しく活気のある時間になります。授業は全7回で構成されており、前半5回では細胞と遺伝子の基礎、DNA解析の手法とその応用、遺伝子解析によって何がわかるのか、そしてそれに伴う倫理的課題について受講生の皆さんと一緒に考えていきます。後半2回では外部講師をお招きし、前半で学んだ知識を基盤として、雌雄の性分化や性差の形成を題材に、遺伝子によって生体がどのように構築され、機能を発揮しているのかを具体的に解説します。ここで特に理解してほしいのは、すべての細胞が性を有していること、そして雌雄は連続的な表現型として捉えられる「性スペクトラム」という考え方です。同じ生物種であっても、オス(男性)とメス(女性)では構造や機能、疾患の発症頻度などが異なります。ヒトを含む様々な生物を正しく理解するためには、性差を生物学的・医学的に理解する視点が欠かせません。最近では、ジェンダーをめぐる議論が活発になる一方で、生物学的・医学的な「性」については十分に理解されていないと感じる場面もあります。本講義を通じて受講生の皆さんが、生命科学の基礎としての遺伝子や細胞の理解を深めると同時に、生物としての「性」を多角的に考える力を身につけてくれることを期待しています。
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