研究室案内研究内容

これまで取り組んできた研究、現在取り組んでいる研究の一部を紹介します。

キーワード

研究分野

脳科学、システム神経科学、生体医工学、精神生理学、生理心理学、認知心理学、データ科学、生体信号解析

研究テーマ

においの脳科学研究、環境の快適性に関する脳科学的評価、脳機能の改善・向上に関するニューロフィードバック研究、学習環境や教材の脳科学的評価

研究手法

主にヒトを対象とした脳科学研究

脳機能計測
脳波、誘発電位、事象関連電位
(機能的核磁気共鳴画像(fMRI)は現在休止中ですが、再開の可能性はあります)
自律神経機能計測
心電図、脈波、眼電図、筋電図、皮膚電気活動、呼吸、血中酸素飽和度
行動計測
認知・心理課題、質問紙等
データ解析
生体データ解析、画像処理、統計処理、機械学習、データマイニング、プログラミング、MATLAB、Python
理論モデル
数理モデル、計算モデル、計算機シミュレーション

においの脳科学研究

嗅覚関連部位

嗅覚経路

嗅覚系は原始的でありながら未解明な感覚系です。嗅覚関連部位や嗅覚経路については、動物実験などにより上図のように理解が進んできましたが、その脳内情報処理メカニズムは未だよくわかっていません。また、においの生理活性効果やにおいを用いた生物間のコミュニケーションなどは、経験的、観察的、定性的な知見が蓄積されてきましたが、におい物質の種類・量とそれらに対する感覚との定量的な関係性をヒトで科学的にきちんと調べた研究は決して多くはありません。ヒトの脳機能ネットワークまで踏み込んだ嗅覚研究は極めて少ないのが現状です。

私たちの研究室は「嗅覚九州プロジェクト」(代表:岡本)という研究チームを率いて、「におい」の総合的な研究に取り組んでいます。におい物質の分子、遺伝子、細胞、神経系、行動、心理の各レベルで、嗅覚情報処理を解明しようとしています。企業との共同研究プロジェクトも進行中です。

独自のにおい提示装置を開発し、嗅覚に関する誘発電位や事象関連電位、fMRIなどを計測しています。

環境の快適性に関する脳科学的評価

快適性評価

応用的な脳科学研究として、嗅覚や温熱感覚に関する環境の快適性評価研究を行っています。従来の快適性評価研究は、気温、湿度、気流などの物理パラメータと主観評価とを関連づけるものが大半であったため、生理応答に基づく客観的な評価研究はまだまだ進んでいません。

私たちは、脳波や心電図などの生理データを計測してヒトの電気生理学的応答と環境との関係を調べ、客観的に熱的快適性を評価する研究に取り組んでいます。放射式冷暖房とエアコンを用いて、風の有無による脳波の違いを初めて明らかにした研究は、Scientific Reportsに論文が掲載され、プレスリリースを行い、テレビニュースでも取り上げられました。他に、木材の違い(無垢材と新建材)による快適性の違いについても面白い結果が出ています。関連する論文が掲載され次第、プレスリリースや本サイトなどで結果を発表していきます。

また、新たな取り組みとして、グループワークにおける環境音等の効果に関する研究にも取り組んでいます。その結果、初対面のメンバで構成されるグループワークにおいて特定の音楽がポジティブな効果をもたらすことが明らかになっており、さらなる研究を進めています。

脳機能の改善・向上に関するニューロフィードバック研究

これまでの大学では、教育においても研究においても、広義の「頭の良い人」が書いたものや、行った実験、打ち立てた理論などについて教えたり研究したりしてきましたが、「頭を良くする」ことに関してはほとんどまともに取り扱ってきませんでした。研究の着想に関しても、いつまでたっても研究者本人の知識と経験と直感に基づいたままです。一方、消したい記憶を消すことやストレス低減などは頭の働きを抑制することで実現できるもので、その意味で「頭を悪くする」需要は確実に存在します。しかし、最新の脳科学の知見を使ってもそれらを実現できているわけではありません。

私たちの研究室では、九州大学内の競争的研究費を獲得し「頭を良くする方法、悪くする方法」の開発と検証に取り組んできました。平成28年度の修論研究では、ルービックキューブを用いた「学習転移」に関する実験を行い、面白い研究結果を得ました。平成30年度の修論研究では、隣人の存在がモチベーションや脳活動に与える効果を調べ、面白い研究結果を得ました。このように、広い意味で「頭を良くすること」に繋がる研究を進めています。最近では、最新の脳波計を駆使し、脳機能の改善や向上に繋がる新しいニューロフィードバック訓練法を開発しています。

新しいデータ解析手法の開発と生体信号解析

様々な手法で計測した脳活動データの解析を始め、歩行の動作解析から様々な画像解析まで、手広く扱っています。

解析した生体信号の一部

脳活動(脳波、脳磁図)

  • パーキンソン病(PD)患者の視床下核神経活動(Stereotact Funct Neurosurg, 2009)
  • 随意運動前のゲート機能に関する体性感覚野の活動(Clin Neurophysiol, 2009)
  • 多発性硬化症(MS)患者の体性感覚野ネットワーク(NeuroImage, 2010)
  • 吃音患者のトノトピーに関する聴覚野の地図(NeuroImage, 2011)
  • 読字過程における脳内画像処理(Neurosci Res, 2012; NeuroImage, 2012)

運動動作

  • 健常者およびPD病患者の歩行分析(日本生体医工学会2007; ISDM, 2011)
  • 履物が歩行に及ぼす影響の評価(JBSE, 2007)

生体信号を用いた感性評価

  • 立体映像装置による視覚疲労評価(ISICE, 2007)
  • 月桂樹葉揮発成分が注意力維持に及ぼす効果(Biomed Res, 2011)
  • 酢酸ボルニルが視覚作業後の覚醒状態や緊張緩和に及ぼす効果(Biomed Res, 2011)

免疫染色画像の自動定量化

  • 拡散テンソル画像による皮質内髄鞘の評価(ISMRM, 2011)
  • タウ免疫染色,平野銀染色によるアルツハイマー病・神経病理画像の定量的解析(卒業研究指導、SfN Neuroscience, 2012)
  • 海馬の神経新生に関する画像解析

視覚野の機能構築と情報処理メカニズムの解明

視覚系は、脳科学の中で最もよく理解された感覚系の一つです。確かに構造や機能についてはそれぞれ多くの知見が蓄積されていますが、構造と機能を結びつけるメカニズムについてはまだよくわかっていないことがたくさんあります。私たちは実験データを用いた計算機シミュレーションを行い、視覚野の情報処理メカニズムを調べています。

2011年には、一次視覚野の傾き検出に関する新しい構造の存在を予測する論文を発表しました(九大プレスリリース)。この論文では、シミュレーションにより、周囲の画像の複雑さに応じて検出特性を変える神経細胞と、周囲の画像の複雑さに関係なく一定の検出特性を保つ神経細胞が、ある規則に基づいて分離配置している可能性を世界で初めて示しました。

一次視覚野の機能構築

現在、関連研究をドイツ・マックスプランク研究所の研究員らと共同で行っています。また、これらの機能構築を画像処理に活かす研究にも取り組んでいます。

その他

現在進行中だったり、計画中だったりする研究。

  • 脳機能を改善・向上させるためのニューロフィードバックに関する基礎・応用研究
  • 脳科学的研究手法を教育分野に応用するニューロエデュケーション研究
  • 脳を知るための人工知能に関する研究
  • 学習過程、報酬効果などと脳活動との関連を調べる研究
  • その他、まだここでは書けない研究多数

研究のヴィジョン

2019年12月20日の雑記再掲

「脳科学の真髄はフィールドにあり。」最近ますます強くしている思いです。色々な条件をコントロールできる実験室実験が重要であることは言うまでもありませんが、実験室の中に日常はありません。そして、私が本当に知りたいのは、日常生活の中で働く脳の機能や活動についてです。

「最初に聴いたときはあまり印象に残らなかったメロディーや歌詞なのに、ふと口ずさむほど記憶に残っているのはなぜだろう?」「朝、ヒゲ剃りをしている時に、研究の良いアイデアを思いつく事が多いのはなぜだろう?」「麦からできているグレンフィディックがここまでフルーティーなのはなぜだろう?」「麦(とピート)からできているオクトモアに、ファーストコンタクトで深い鰹だしの味わいを感じるのはなぜだろう」「米からできている泡盛(古酒)にテキーラを感じるのはなぜだろう?」(おっと、お酒ばかり・・・)こういうことを、今取り組んでいる温熱環境研究やスポーツ研究を含め、この「フィールド脳科学」で解明や応用ができるのではないか、そう思っているのです。

私の研究室では、約2年前、今後の成長戦略の1つとして「ニューロフィードバック」を掲げ、周到に準備を進めてきました。そして今複数の実験を展開し、これから着実にエビデンスが積み上げられていく見込みですので、ぜひご期待頂ければと思います。ニューロフィードバックを実地で行うということにも取り組み始め、大いに可能性を感じています。私の脳科学に対するスタンスが当初から「人間の可能性を追究する」ですので、そもそもの親和性が高いんですよね。「フィールド脳科学」というのが、私のラボの次なるスローガンになるかもしれません。

それを考えると、今のラボの規模では、マンパワーが全く足りません。少数精鋭で良い仕事を沢山するというのが理想であることは変わりませんが、考えていることが色々あり、そしてそれに期待してくれる方々が大勢います。マンパワーが増えれば、私のキャパもまだ増やせます。なんとかしないと。

2015年02月15日の雑記再掲

Facebook経由で伝わってきた山中先生の高校生向け講演会での「VWの話」。研究者として成功するにはvisionを伴ったwork hardが大事、というお話です。これは留学先(グラッドストーン研究所)の所長の言葉であり、山中先生自身も実践し伝えている言葉でもあります。こういう金言は成功したからこそ言える事でもあって、実際は「visionを伴ったwork hard」を実践している人は山のように居るんですよね。それは、山中先生ご自身もよくわかっておられ、高校生に最後に贈った言葉が「人間万事塞翁が馬」でした。僭越ながらすごく共感できます。「人生何が起こるかわからないんだから、本当にベストを尽くしたらその結果は天に任せるしかないじゃないか」と私も思っていて、以前からfacebookの好きな言葉に「盡人事而待天命」を入れています。今のテニュアのポストを獲得する直前にそういう心境になったので、その頃に書いたんだと思います。

で、visionの話。元々の私の専門もvisionですが、ここではもちろん「視覚」の事じゃなくて「研究の展望」の事です。私の研究室では多角経営をしていますが、根底には「感覚系を解明したい」という思いがあります。生物が生きていくために脳によって創造されたのが感覚であって、神秘的で不思議で不思議でたまらない、というのが純粋な理由です。ただ、単に感覚系を解明したいだけではなく、そこから全く新しい何かを創造(クリエイト)したいという野望があります。最初は(今もですけど)、クリエイトしたい対象が「アート」でした。元々大好きなアートへの思いから視覚研究に行ったフシもあり、視覚研究からアートに意識が向いたフシもあり。でも、最近思いを強めているのは、脳の機能強化です。世界中の脳科学者も私も、こんなに脳の研究をやっているのに、研究テーマの発想・着想は旧態依然として「アタマのヒラメキ」に依るものが多いです。研究成果によって機能強化された脳によって画期的な発想・着想が得られてこそ、ブレイクスルーが達成できると思うのです。人工知能でもなく脳トレでもない、次元の異なる機能強化。こういう所に繋げて行きたいと、私は考えています。

最初の研究対象が初期視覚野だったということもあり、脳機能を説明する上で私の好きなアプローチは、やはりボトムアップ的なものです。感覚系からのボトムアップで創造した「思考システム」が発想し、その発想を基に「自分の脳」が研究テーマを着想する。私が行っている脳の研究は、そういう研究の「ブレーン」を創り出す事に繋げて行きたいなと思っているわけです。

公開日: 2014年08月20日
最終更新日: 2023年03月24日