基幹教育院について

About Faculty of Arts and Science,Kyushu University

基幹教育院長ご挨拶

学びの「相転移」を引き起こし、
しっかりとした学びの幹を育てよう

基幹教育院長 原田 恒司 Koji Harada
(撮影:岡本剛 准教授)

基幹教育院のHP にようこそ。基幹教育と基幹教育院について簡単に説明しましょう。

基幹教育が目指すもの:
基幹教育の目的は一言で言えばアクティブ・ラーナーの育成です。といってもよくわからないかも知れません。そこで、高校までの学びの典型的な学習者「指示待ちくん」と、典型的なアクティブ・ラーナー「アクティブくん」とを対比しながら説明したいと思います。 指示待ちくんは、大学入学まで、実に丁寧な教育を受けてきました。授業では先生が教科書を1行1行なぞるように説明してくれ、補習があり、問題集の何ページから何ページまでが宿題で、その解き方は学校の、あるいは塾・予備校の先生が微に入り細に入り説明してくれますし、問題集にはぶ厚い別冊解答がついています。先生の言うことをよく聞いて、それに従っていれば、「実力」はメキメキとついて大学入試も乗り越えることができ、晴れて九大の1年生となりました。しかし、指示待ちくんは大学に入って大いに戸惑います。大学の先生は「もうこんなことはわかっているよね」と言わんばかりにズンズン授業を進めていきます。大学の教科書ってどうしてイラストが全然ないの?フルカラーじゃない教科書を使ったことがないので、開くだけで気が滅入ります。文字がびっしり。先生、この部分は授業で説明してくれないんですか?読まなくてもいいのかな。試験に出ない?あれ、入試まであんなに勉強してきたのに、なんかあんまり覚えていないな。サークル楽しいし、勉強はわからなくなっていくし。要は単位取れればいいんでしょ?それになんかキカン科目はめんどい。私、こんなのやるために大学入ったんじゃないよね。早く専門のこと教えてくれないかな。 一方、アクティブくんは高校までの学びと大学での学びの違いにいち早く気づき、ちょっと違う大学生活を送っています。大学の授業でわからないことがあってもすぐに匙を投げることはせず、反芻して少しずつ理解を進めます。授業で先生から与えられた情報を吸収することだけが学びではないと思いました。ネットで検索したり、図書館に行ったりすれば、沢山の情報が手に入ります。しかし単に「答え」に飛びつくのではなく、考え方を重視して、自分で自分の学びをコントロールしています。また、「基幹教育セミナー」を受けて、いろいろな学部のクラスメートが、全く違うモチベーションで大学に入ってきたことにスゴク刺激を受けました。自分が選んだ専攻で、自分は一体何を目指すんだろう。クラスメートといろいろな意見交換をして、自分の考えをまとめていくだけでなく、相手の考えにも真剣に耳を傾けます。後期の「課題協学科目」では、先生は「教えてくれない」で、授業はグループでの議論を中心に進められて行きます。アクティブくんは、これはボクたちを挑発しているんだな、と思いました。やる気になればいくらでも深いところまで進んで行けます。いろんなアイデアがグループのメンバーからどんどん出てきます。自分ひとりではきっと思いつかなかったようなものがたくさん。いやあ、みんなスゴイな。 指示待ちくんは大学に入って、それまでの受け身の学びから自律的な学びに「相転移」する必要があったのですが、今までの「成功体験」のために、し損なってしまったようです。一方アクティブくんはうまく転換できたようですね。また、知識を得る学びだけでなく、仲間と協働する学びの効用にも気づいているようです。

近代的な学知は細分化された専門性によって特徴づけられます。個々が研究すべきことを特化する事によって、われわれは全体として、あらゆる分野で先鋭的な知識を獲得してきました。一方で、細分化は視野狭窄を齎し、研究という自らの営為が社会にとってどのような意味を持つのかを理解しづらくなっています。広い視野をもち、専門性と総合性を併せ持つことが、実は専門的な知識を活かしていく重要な契機になります。九州帝国大学初代総長の山川健次郎はいみじくも「己が専門の蘊奥を極め、合せて他の凡てのことに対して一応の知識を有して居らんで、すなわち修養が広くなければ完全な士と云ふ可からず」と言いました。卓見というべきだと思います。古くは淮南子にも「有鳥將來、張羅而待之、得鳥者、羅之一目也。今為一目之羅、則無時得鳥矣。」という言葉があります。一つの目しかない網を作っても鳥を捕まえることはできません。様々な知が一つの総合的な有機体となって、初めて機能的に働くのです。ただ、現代の複雑な問題に取り組むには、単に修養が広ければよいというわけではありません。いろいろな人の持つ多様な知を複合し、協働することによって解決していかなくてはなりません。また、時代の流れはとても速いので、常に知識をアップデートしていく必要があります。大学4年間で学ぶことが学びのすべてではありません。新しい状況に迅速に対応するためには、常に学び続ける必要があるのです。基幹教育は、このように自律的に学び続けるアクティブ・ラーナーを育成することを目的として、初年次教育、高年次教育、そして大学院教育と接続して「学びの幹」を形成するための教育を目的としています。基幹教育は専門教育と対立するものではなく、専門教育の意義を深めるために存在するのです。

基幹教育院について:
このような基幹教育のミッションを達成するために、基幹教育院という組織が作られました。基幹教育院は、全学出動のもとで行われる基幹教育の運営に責任を持ち、継続的に基幹教育の改善・点検を行っています。基幹教育院はまた、文部科学省の教育関係共同利用拠点(「次世代型大学教育開発拠点」)として、FDなどを通して基幹教育院(に限らず九州大学内)の優れた教育実践を学内全体や他大学に紹介し、大学教育の更なる活性化とパワーアップを図っています。 基幹教育院の教員は、一人ひとりが優れた研究者であると同時に、教育実践においても創意工夫を凝らし、また責任感を持ってあたっています。マギストレース(MagisTRES)は3人 (tres) の教員 (magister) が一組となって、「基幹教育セミナー」、「課題協学科目」を実施していく仕組みです。その3人一組のリーダーは、多くの場合基幹教育院の教員が務めます。部局から出動して戴いている教員の不安や疑問に対応することでスムーズな授業運営を可能にし、また、教育の質を担保しています。