基幹教育院について

About Faculty of Arts and Science,Kyushu University

教員紹介

専門分野
ぼーっとすることは理系脳を育むための重要な営みであると知ってから、いよいよ躊躇なくぼーっとしてマイペースに過ごしています。マイペースでも〆切は守ります。〆切までのゆっくりとした時間は、あれこれと思いを巡らし創造的に過ごしています。

私の初めての研究は、短寿命(-78 ℃の極低温下で1秒程度の半減期)の化学種を使った不斉合成(有機化学)研究でした。他にも多彩な研究テーマが走る研究室で、師の研究哲学に触れることができた大学院の5年間は、ずいぶんと心地良いものでした。極端な話ですが、面白くないと思った研究はゴール手前であってもやめようと言い出す師の姿は、純粋に「かっこいい!」と思いました。師曰く、「自分たちにしかできないことをやるのだ」と。

そんな師の姿に憧れつつ、いまは不斉合成研究から少し離れて、生化学、天然物化学、創薬化学、英語ライティング法などを研究しています。異分野融合とでも言った感じですが、「分子合成」とその「活性評価」のような技術の足し算ではなく、有機化学の考え方を色々なところにねじ込んでこねくり回そうという意気込みです。

薬用植物などの天然物は人智を超えた多様な分子を生産します。そんな天然物抽出物から新しい分子を探し出す研究(いわゆる「ものとり」)は日本のお家芸ですが、私はむしろ天然物抽出物を利用した「ものづくり」に挑戦しています。数百もの分子を含む夾雑系の天然物抽出物を基質とした「ものづくり」は一見無謀なことのように思えますが、いくつかの重要なポイントを押さえれば、「ものづくり」は実に綺麗に進行します。この方法を使って、夾雑物の中に埋没して日の目を見なかった未開拓の天然有機分子を優しく発掘してスマートに利用できたらいいなと思っています。

もう一つ。生化学でよく行われている酵素実験に有機溶媒のDMSO(ジメチルスルホキシド)をいつもより少し多めに加えると、酵素に摂動が生じ、思いのほか簡単に酵素とその阻害剤の分子間相互作用の特異性を評価できるようになります(DMSO摂動法)。この摂動法は複雑系を対象とした研究(下記)にも役立ちそうで、今からワクワクしています。

英語ライティング法にも興味があります。「センテンスとセンテンスを英語らしく書き連ねる」という課題に対して、ノンネイティブならではの発想で4つの指針(主語をつくる、旧情報を副詞的に受ける、主語を共通化する、主語をリレーする)を提案しています。この4つの指針をメインコンテンツとした新科目「科学英語ライティング」を設計し、2021年度から基幹教育オープン科目として開講しています。学生の皆さん、履修をお待ちしています。

私の研究者としての最終到達目標は、漢方薬の薬理作用・薬物動態を解明することです。数百〜数千にも及ぶ天然有機分子の集合体である漢方薬(複雑系)が如何にしてからだ(複雑系)の中で働くのか、この漢方薬の知られざる魅力を摂動法を用いて理解し分子の言葉で記述し、多くの人と分かち合えればと思っています。

<写真>
複雑系・夾雑系に囲まれて@高知県立牧野植物園
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