基幹教育院について

About Faculty of Arts and Science,Kyushu University

教員紹介

佐喜本 愛准教授 Ai Sakimoto

専門分野
日本教育史
 2022年秋に着任しました。基幹教育では、基幹教育セミナー、課題協学科目、文系ディシプリン科目の教育基礎学入門、現代教育学入門を担当します。
 私の専門は教育学です。今日の教育問題は、一部の専門家にしかわからない記号や法則を要する他の問題とは異なり、様々なレベルで話題にされ、議論されています。それは、私たちが一定の「教育」を経験しているからに他なりません。たしかに経験知は大事ですが、時に偏った見方に陥る危険を有しています。教育学は自らの経験・体験のみで語りがちな教育事象をより根本的に問い直す視座を学ぶ学問です。
 この教育学の中でも、私は教育を歴史的に分析する「教育史」(日本教育史)を専門としています。私の教育史研究の特徴を一言で言えば、モノから見る教育史です。教育理念や思想ではなく、教育実践を構成する「モノ」という環境条件に着目しています。近年、学校教育にパソコンやタブレットが導入されたように、教育の場には何らかのモノが登場し、そのモノを媒介として、教師と子どものみならず、保護者や地域住民、その購買促進を促す企業など複層的な関係者の姿が浮き彫りになります。私はこのモノの「扱い方」にそれら人々の具体的な動きや心性がダイレクトに表れるという視座にたち、近代日本の教育の特質を社会史的に研究しています。具体的には戦前、小学校の体操の時間に用いられた教具「木銃」を取り上げ、木銃の「扱い方」を通して見えてくる教育の名のもとに展開する様々な人々の志向、思惑を描き出しました[『木銃の社会史-小学校教育における表象と国民形成-』六花出版、2021年]。現在では、天皇制教育の象徴として戦前の学校に建設された「奉安殿」研究に着手しています。
 こうしたモノから見る教育史という研究視点は、大学で授業を担当する中で、学生さんから素朴な、かつ鋭い感想や質問を受けたことが大きなヒントとなりました。前任校の九州産業大学では教職課程の教員として教員養成に携わり、多くの学生さんから刺激を受けながら、ともに「教育」について考えてきました。私の研究は学生との関わりから生まれたものともいえます。
 基幹教育院では「学び方、考え方を学ぶ」姿勢が重視されています。私は教育史的知見をもとに、教育について根本的に考え直す機会を提供し、自明を疑う視点を身に付ける授業を試みたいと考えています。現在の自分たちが無自覚にも囚われている教育観から身を引き離し、その教育観そのものを検討の対象にすることができる力を獲得し、新たな「学び」と新たな「知」を創造する基礎を身に付ける支援ができればと思っています。
 
 
※写真「内山下尋常高等小学校体操会 中隊教練(高二男)」年代不明、佐喜本所有
  図 『教育公報』184号(1896年12月1日、31頁)
 モノに着目する史的研究は、文字史料はもちろん、写真、図面、カタログ、広告を分析対象とし、現物の確認作業も不可欠です。木銃もネットオークションで入手しました。研究室にありますので、興味のある方は是非お越しください。
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