基幹教育院について

About Faculty of Arts and Science,Kyushu University

教員紹介

山中 隆志助教 Takashi Yamanaka

専門分野
素粒子実験
 2020年4月に着任しまして、コロナ禍を経て、この原稿執筆時点では気が付けば基幹教育院に来て早4年目になります。研究分野は素粒子実験でして、素粒子や力(相互作用)が数学的な対称性で記述されることに興味を持ち、一方で小さい頃から機械や工作も好きだったことからこの分野を選択して今に至ります。基幹教育院に着任する前も九州大学の先端素粒子物理研究センターに研究員として在籍しており、そのときから今も続けている研究が、ミューオンという素粒子の異常磁気能率(および電気双極子能率)という物理量の精密測定ですが、真の目的はそれを通しての新しい物理現象の探索にあります。

 素粒子分野では現在、標準模型と呼ばれる非常によくできた理論模型が構築され、これまでに観測されている実験結果を非常に高い精度で計算・予測することが可能になっております。一方でこの模型では説明できない問題も多々存在することから、これを超える新しい理論が存在すると多くの研究者が考えています。そのような標準模型の綻びを探す実験の一つが上記の実験です。ミューオンの異常磁気能率(aμ)は標準模型に基づく計算において aμ=(116591810±43)×10-11という精度で求まる一方、2023年8月に公表されたアメリカで行われている実験結果と過去の結果を合わせた測定値がaμ=(116592059±22)×10-11となっており、その差は相対的には0.0002%程度しかないものの、理論予測、実験値それぞれの誤差から求まる標準偏差の5倍以上も開いた結果となっています。ここに新物理の兆候があるのではないかと考え、これまでの実験とは異なる方法で測定することで、このずれを確実なものにしようとしています。

 測定を行うには装置作りから始める必要があり、私が担当しているのはミューオンが崩壊したときに放出される陽電子という粒子を検出するための測定器の開発です。その測定器に使用する部品も必要に応じて開発・製作しなければなりませんが、私が現在、主に行っている仕事の一つに粒子を検出するセンサーからの信号を処理するための集積回路(IC)チップの検査があります。このICチップもこの実験のために私たちの研究グループや協力関係にある研究機関と共同で開発したものですが、製造したチップに動作不良がないか1個1個検査する必要があり、そのための検査システムも自前で製作しています。開発初期は毎日クリーンルームにこもり、システムの動作確認も兼ねてチップを検査する毎日でした(写真参照)。

 授業は主に学部1、2年生向けの実験の授業を担当しています。自分の研究内容と結び付けられるような実験はなかなかできないのが悩ましいところですが、実験、自然科学の面白さが伝わるような授業を心がけたいと思います。

写真:クリーンルームでのICチップ検査作業の様子。

 
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