基幹教育院について

About Faculty of Arts and Science,Kyushu University

教員紹介

梶原 健佑准教授 Kensuke Kajiwara

専門分野
憲法学
 私の専門は「憲法学」で、とくに「表現の自由」を研究テーマの中心に据えてきました。表現の自由を保障しておくことは、それぞれの表現者が「思うこと・考えることを自由に発信できる」という点で大切であるのみならず、社会の課題や解決の方向性等について、誰もが参加できる議論の場を確保し、対話を促進させ、質の高い政治的決定へと繋げる、という社会的(民主的)な側面からも意義が大きいと考えられ、憲法上の諸権利のなかでもとりわけ厚く保護されるべきだと解されています。
 
 他方で、表現はときに誰かを傷つけてしまいます。最近も、フェイクニュース、誹謗中傷・炎上、ヘイトスピーチ、プライバシー情報の暴露等々、表現絡みの社会問題が多く目につきます。これら表現に対しては「発言者を処罰しろ」「厳罰に処す法を作れ」といった声も聞かれ、それには共感する部分もあるのですが、国家に情報の真否や表現内容(とくに思想)の善し悪しについて一方的に判断することを許すわけにはいきませんし、そもそも国家にその能力が本当にあるのかも怪しいところです。したがって、両サイドを睨みながら適切な「落としどころ」を探るバランシングの作業が必要になってきます。この種の課題は実験や数式を使って「唯一の正解」に辿り着くことはできず、関係諸利益への目配り、副作用の危険、論理の一貫性・整合性、結論の妥当性等を熟考して議論しなければならない難しさがあります。私自身も、ヘイトスピーチ、偽情報、名誉毀損といった問題領域において、制度の次元・個別の事件の次元それぞれで最適な結論を探る研究に従事してきましたが、常に懊悩煩悶のなかにあります。
 以上のような個別の諸課題に加え、昨今では、フィルターバブル、エコーチェンバー、ターゲッティングやレコメンデ―ション等を通じた入手情報の偏り・歪み、巧妙な偽情報の増加等々、「自由な表現を可能にしておけば、市民の理性的やり取りの中で悪しきものは淘汰され、良きものが残る」という憲法学の従来の理論の前提を揺るがしかねない現象も観察されるようになっています。そこで近年は、法理論面でのこうした事態への対応というような大きな論点にも検討対象を徐々に広げつつあります。
 
 また、以上のような問題関心や憲法学において重視すべき価値・思考法を学生の皆さんに伝え、議論していきたいと考えながら、「日本国憲法(高年次基幹教育科目)」等の担当授業にも日々取り組んでいます。
一覧に戻る