基幹教育院について

About Faculty of Arts and Science,Kyushu University

教員紹介

石井 祐子准教授 Yuko Ishii

専門分野
美術史
教員:まずは、この問いから始めましょう。あなたの思う「芸術」とは、どのようなものですか?ここではとくに、美術作品について考えてみましょう。
学生A:やはり私は、かの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》でしょうか。美しくて神秘的な女性の肖像が、本当にそこに居るかのように描かれています。布の襞や肌の質感なんて、まるで写真みたいです。
学生B:僕はピカソの絵を思い浮かべました。小学生でも描けそうだし、何を伝えたいのかよく分からないけれど、その分からなさも含めてアートという感じ。ユニークな絵だと思います。
教員:それらの絵をみたことがありますか?
学生A, B:もちろん!教科書やテレビで何度も。ネットでも見られます。


 ごくありふれた会話ですが、上記のやり取りには、芸術学をめぐる基本的な問題のいくつかが隠れています。芸術における美、技術、模倣、意味、独創性、唯一性、複製技術など……こんにちの私たちの芸術観を支える、あるいはそれに深く関わる概念です。私が基幹教育で担当する芸術学関連の授業では、芸術をめぐる基礎概念について歴史的かつ具体的な作品とともに学んだうえで、このような芸術観を問い直すことを迫るような20世紀以降の実践について、皆さんと一緒に議論しています。

 申し遅れましたが、私の専門は美術史です。とくに、20世紀最大の芸術思潮のひとつといわれるシュルレアリスムの美術や造形作品について研究してきました。シュルレアリスムというと、「シュール」で現実離れしたものを想像されるかもしれません。しかし、20世紀初頭のパリで興ったシュルレアリスム運動にかかわった人々は、現実から離脱するのではなく、強度の(sur-)現実を生きようとしました。その探求や実践について研究することは、各々の時空の社会や文化を考えることであり、ひいては「いま、ここ」に生きる私、私たち、そして他者について考えることにも繋がっています。

 もうひとつ、私の研究の原点にあるテーマは「コラージュ」です。コラージュという営みは、断片を組み合わせる技法として現在の私たちの身の回りにもあふれています。私は美術史上の問題として、異質なもの同士が本来あるべき場所から切り離されて別の場で出遭うとき、何が起るのかについて考えてきました。私は主に造形的な媒体や領域でこのことを研究していますが、それは、あらゆる人や物にも起こりうる(起こっている)出来事です。たとえば、異文化交流。異なるバックグラウンドを持つもの同士が、異郷の場で出遭うとき、どのような文化的摩擦や創造、文脈の再編が生じるのか。広くいえば、そのような問題に関心があります。

 よって必然的に、研究においても教育においても、領域横断的な活動に興味があります。基幹教育では、多種多様な関心を持つ学生や、いわゆる「文理」を問わずさまざまな研究分野の教員との交流があり、その点でも日々刺激を受けています。
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