基幹教育院について

About Faculty of Arts and Science,Kyushu University

教員紹介

古屋 謙治教授 Kenji Furuya

専門分野
分子分光学
 総合理工学研究院から基幹教育院に異動して早や13年になります。理学部化学科の出身で分子分光学を専門としており、総理工時代までは学部低年次教育に関わったことがありませんでした。そんな私が、基幹教育全体の立ち上げから課題協学科目の設計と運営、さらには基幹教育院の運営に携わり、それらを何とか軌道に乗せることができたのは、多くの方々の助言や協力のおかげに他なりません。その一方で、一緒に研究する仲間がいなくなり、自分自身で実験し研究発表しなければ何一つ成果が挙がらない日々も続いていました。

 基幹教育院で5年が経過した頃、様々な役職から一旦離れることができました。肩の荷が降りた状態で、「課題協学科目をこの先どうしようか」とか、「若い頃みたいにワクワクしながら研究したいな」と思いを巡らせ、前者では高年次基幹教育への発展を、後者では新しい研究テーマを考えました。

 量子力学の創成期に活躍し、原子・分子物理学の分野で顕著な業績を残したフントは、その著書[1]の中で、「重要かつ根本的な認識は、それが生み出される際に徹底的に議論されるだけであって、それ以後においてはそれらは多かれ少なかれ、信じ込まれるかあるいは自明のこととして手軽に利用されるものなのである。」と記しています。大学院生時代にこの本に出会って以来、上述した引用文、とくに前半の箇所は頭の片隅にずっと残っていました。そんなこともあり、研究面ではもっぱら基礎的な問題に興味が向いていましたし、課題協学科目を設計する際には、その前身となる科目の目的や実施方法のみならず、その科目の歴史や当時の担当者によって書かれた記述を探し参考にしました。

 さらに数年が過ぎ、課題協学科目を高年次基幹教育へ発展させることは叶いませんでしたが、次の世代の先生方が内容を全面的にリニューアルして下さり2025年度より新科目として開講されます。新しい研究テーマは私が専門とする分子分光学とほとんど無縁で化学ですらないので、背景や現状を調べ尽くすのに随分時間がかかっていますが、最近やっと研究らしくなってきたところです。研究が順調でないときには他の業務で忙しいことを言い訳にしていました。でも、自分が心底面白いと思っている研究ならどんなに忙しくても時間を見つけてやるもんだなあ、と我ながら実感しています。定年までに研究成果をまとめようと、他の業務の合間を縫って老骨にもめげず実験に取り組んでいます。

[1] フリードリッヒ フント 著、井上健・山崎和夫 訳、「思想としての物理学の歩み(上)、(下)」(吉岡書店、1982)

写真:新しい実験装置が動き始めた頃に撮影した写真(iPhone 8で撮影)。マイクロメートルサイズの微粒子集団がプラズマ下方で浮遊して静止し、緑色のレーザー光を散乱して光っている。
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