基幹教育院について

About Faculty of Arts and Science,Kyushu University

教員紹介

松本 洋幸教授 Hiroyuki Matsumoto

専門分野
人文・社会 / 日本史
 2025年4月に着任いたしました。九州大学文学部、比較社会文化研究科で学んだ後、横浜の近現代アーカイブズで15年、東京の私立大学で10年勤め、4半世紀ぶりに九州大学にお世話になることなりました。私の在学時よりも、はるかにグローバルかつインクルーシブな雰囲気に、日々刺激を受けています。
 専門は日本近現代史で、水道などの都市インフラが整備される背景を政治史的に読み解く研究に取り組んでいます。近代水道の基本的機能は伝染病予防と火災防止です。ただ実際には、新たな都市財源となり、様々な経済効果を生み、人々の生活の合理化・効率化をもたらし、コミュニティーの紐帯となり、新たな都市空間を編成する、極めて多機能的なインフラです。日本では水道の建設主体は原則的に基礎自治体ですが、上記の多様な機能を持つことから、様々な思惑を持った多くのステークホルダーが登場します。近代水道の意義は理解しつつも、必要性の度合いや、費用負担のあり方、果ては細かい技術的な問題をめぐって議論百出します。私の関心事は、近代水道の登場でいかに衛生的・安全な都市空間が誕生したかという成功の物語ではなく、むしろ水道の建設をめぐって繰り広げられる政治的ドラマにあります。その解明を通して、近代日本における都市化の過程や、中央―地方関係の変遷などに迫りたいと考えています。2020年に上梓した『近代水道の政治史』はその第一歩です。
 現在、二つの問題に取り組みたいと思っています。
 一つは、小規模水道(簡易水道)が地域社会の形成に果たした役割です。九州の山間部・島嶼部には小規模水道が散在し、熊本県は全国的に見ても多い地域です。これらの水道は、主に1950~60年代に、地元の人々が資金や労力を出しあって共同建設したもので、地域社会のコミュニティーやアイデンティティーの象徴でもあります。しかし、これらの多くは過疎化や少子高齢化の進展で、存続の危機に立たされています。そうした中で小規模水道は、地域社会の持続可能性について重要なアナロジーを提供してくれます。
 もう一つは、世界史・アジア史の中での日本の近代水道の位置づけを、水道技術者の足跡や技術移転の問題などを通して具体的に考えることです。一例を挙げると、福岡市水道課長をつとめた上田研介は、満洲新京で水道創設にあたり、戦後は民間水道会社で内地の水道再建に力を尽くしました。現在は、満洲などで活躍した技術者に関わるデーターの蓄積を、大学院生と進めているところです。こうした日本の近代水道が東アジア全域で培った経験や蓄積は、21世紀の世界的な水問題へも、何らかの示唆を与えるものと思います。
 基幹教育院では、基幹教育セミナー、課題発見科目、文系ディシプリン科目などを担当します。歴史学の持つアナロジーの面白さについて、幅広い学問分野の先生方や学生さんたちと考えていきたいと思っています。

画像キャプション 『近代水道の政治史』(吉田書店、2020年)


 
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