九州大学 基幹教育院 次世代型大学教育開発センター

理系研究室マネジメントのFDを開催しました

平成31年2月20日(水)にFD講演会「大学院理系研究室のマネジメント -風通しの良い研究室の構築に向けて-」を開催しました。研究室を運営するPI(Principal Investigator、主任研究員)には研究、教育の両面における高い能力が求められます。他方で、研究室運営(ラボラトリーマネジメント)には多くのPIが苦慮しており、試行錯誤しながら対応しているというのが現状です。そこで本研修では、学生とのコミュニケーションを中心に「教員が勘違いしていそうなこと」について、経営学の観点から谷口勇仁先生に(北海道大学)にお話して頂きました。また参加者は、講演と併せて、「教員がよかれと思ってとった言動が学生に悪影響を及ぼすケース」についてのグループワークを通して、マネジメントの感受性を高めました。

開催概要

開催案内(PDF) ポスター(PDF)

【日時】平成31年2月20日(水)16:40~18:10
【会場】九州大学 伊都キャンパス
センター3号館3105・3106教室
伊都キャンパスマップの61番です。

【定員】30名(先着順)
【参加費】無料
【対象】研究室運営に携わる研究者、PI(Principal Investigator)を目指す研究者、研究者を目指す学生、研究室運営に関心を持つ方

【講師】谷口勇仁(北海道大学 経済学研究科・教授)

開催報告

【参加者情報】
学外:3名(うち県外 2名)
学内:16名
合計:19名

【アンケート結果】

《満足度》

満足:6 概ね満足:4 どちらともいえない:1
やや不満足:0 不満足:0

《参考になった点》(抜粋)

  • 指示型から委任型への段階的なスタイルの意識。ヒラメ症候群からの脱却。
  • 組織的怠業という考え方。
  • 標準的な仕事量を適切に定めて、ブレずにふるまうこと。
    【谷口先生からのコメント】ありがとうございます。教員の評価基準がぶれることは、自分たちのふるまいで評価基準を動かすことができると学生が考えてしまうことにつながりますので、安定させることが重要です。学生の研究を取り巻く状況を正確に見極め、評価基準を構築してください!
  • SL(Situational Leadership)理論を知ることができ、とても参考になった。
    【谷口先生からのコメント】ありがとうございます。リーダーシップ論には様々な理論があるのですが、部下の成熟度合いに注目したSL理論は、学部、修士、博士という3つのレベルの学生を担当するラボラトリーにマッチしているのではないかと思い紹介した次第です。是非意識してみてください!
  • 自由性を意識しすぎていたので、今後は指示を多めに出しても良いと思った。
    【谷口先生からのコメント】様々なタイプの学生がいるので、一概には言えませんが、経験の浅い学部生に対する指示を多めにするのは、研究室に所属する学生にとっても受け入れやすい方針だと思います。忖度は誤解を生む原因にもなりますから、勇気をもって指示を多めに出してみてください!

《分からなかった点・もっと説明してほしかった点》(抜粋)

  • ラボラトリーやゼミナール(ミクロ)レベルだけでなく、専攻・学科レベルや学部・研究科レベル(メゾ)、そして大学レベル(マクロ)のマネジメントについても、組織論研究は貢献できると思うが、その点についてどのようにお考えか。
    【谷口先生からの回答】ご指摘の通りだと思います。経営学(組織論)の知見は、ラボラトリー、学部、大学全体という分析レベルで応用することが可能だと思います。特に、大学のマネジメントやガバナンスは近年精力的に研究が蓄積されている分野です。ただ、私は、①ラボラトリーにおいてマネジメントの意識が比較的低いこと、②ラボラトリーにおいてマネジメントが近年特に重要になっていること、の2点から、ラボラトリーマネジメントに特に注目しています。
  • 給与のような定量的な報酬がない状況では、仕事量に応じた報酬として何を与えるのが良いのか(現状では、褒めていることのみが報酬となっている)。
    【谷口先生からの回答】非常に重要な指摘だと思いますし、学生のモチベーションに関わることなので、私にとっても大きな課題です。暫定的なコメントですが、まず、研究に対するパフォーマンスをきちんと教員が評価することがベースになると思います。正確な事実に基づいた褒め言葉には大きな説得力があります。
    その上で、研究室内や学外からの承認がポイントになると思います。研究を頑張った学生が学会で良い研究報告をし、高い評価を受けるというのが一つの理想です。また、研究を通して、「できるようになった」、「うまくいった」という自己有能感を獲得することもポイントになると考えています。
    仕事量に正確に比例した報酬を与えることや、大学院の成績を報酬と位置づけるのは、色々な理由からラボラトリーにおいては現実的ではないと考えています。
  • これまでに知らなかった内容ばかりでとても興味深かったが、振り返ってみると、どれも古典的なお話だったようにも感じた。谷口先生のラボラトリーマネジメントに関する最新の研究成果もお聞きできたら、なお良かったと思った。
    【谷口先生からの回答】ありがとうございます。私は大学院理系研究室の特徴を確認した上で、経営学の知見の中で、上手く適用できそうな概念をピックアップし、皆さんに紹介することがラボマネに役立つと考えています。基本的な考え方を伝えることを重視しているため、どうしても古典的な概念が中心になってしまう傾向がありますが、お許しください。機会があれば研究についても報告させていただきたいと思います!
  • テイラーの回答について、プレミアムは分かるが、ペナルティの具体例にはどのようなものがあるのか。
    【谷口先生からの回答】説明不足でごめんなさい!ペナルティとは、罰を与えるという意味ではなく、報酬が減るという意味で用いています。
    ※事務局からの補足:今回のFD内ではフレデリック・テイラーによって提唱された「差別的出来高給制度」が紹介され、その中で「プレミアム」と「ペナルティ」の話がありました。
  • 大学では、ヒラメパラドクスでもなんでもいいから、手と頭を使ってくれればそれでいい、という気もする。ヒラメパラドクスでどのような弊害があるのか。
    【谷口先生からの回答】ヒラメパラドクスは、「学生が研究の手を止めて教員の顔色をうかがうことに頭を使ってしまう」ことを意味していますので、経験の浅い学生に手と頭を使ってもらうには明確な指示が必要になります。忖度活動に注力してもらうよりも具体的な指示を出して研究活動に注力してもらいましょう!
  • 具体的な良い例を示していただくとよりイメージしやすくなると思った。
    【谷口先生からの回答】ラボラトリーマネジメントにおいて「問題となっている現象」や「皆が悩んでいる課題」は比較的特定しやすいのですが、その解決方法は、各ラボラトリーの環境が異なるので多様な選択肢があり、成功例も多様になります。社会人の悩みの多くは社内の人間関係だといわれていますが、その解決方法はさまざまであることと似ていると思います。ただ、一例であっても提示することによって説得力が増すと思いますので、今後は成功例も示していきたいと思います。

《その他》(抜粋)

  • 谷口先生が本当に明るい方で、とても楽しいFDだった。事前に拝読した谷口先生のラボラトリーマネジメントの論文の印象から、硬い内容のFDになるのかなと思ったが、良い意味で裏切られた。
  • これまで漠然と思っていたことを含め、体系的にラボラトリーマネジメントについて学ぶことができた。また、これまで教育的観点も考えた学生対応で憂鬱だったが、今後はラボマネをうまく活用して乗り越えていきたいと思った。学生含め、多くの理系研究室の人達に知って欲しい内容だと思った。
  • 14:30以降だと参加し易い。
    【事務局からの回答】ご意見ありがとうございます。学内外のより多くの方が参加し易い時間設定を検討しています。今後の参考にさせて頂きます。
  • 他キャンパスからは参加しずらいこともあり、webやe-learningで実施していただきたい。
    【事務局からの回答】ありがとうございます。e-learningコンテンツの開発については現在のところ着手できておりません。将来的な課題とさせて下さい。
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