九州大学 基幹教育院 次世代型大学教育開発センター

カリキュラム設計FD(実践編)を開催しました

平成31年3月1日(金)にカリキュラム設計担当者養成プログラム(実践編)「学修成果に基づく哲学教育プログラムの設計 -桜美林大学哲学専攻プログラムの挑戦-」を開催しました。今回は、欧州チューニングの方法論に基づいて哲学教育プログラムの設計に取り組んでおられる桜美林大学の田中一孝先生をお招きし、学修成果に基づいて大学教育をデザインする方法、及びそれを推進する教学マネジメントの在り方についてご講演頂きました。桜美林大学哲学専攻プログラムの事例を通して、カリキュラム設計について考えを深めました。

開催概要

開催案内(PDF) ポスター(PDF)

【日時】平成31年3月1日(金)14:00~16:00
【会場】九州大学 伊都キャンパス
センター2号館2201教室

【講師】田中一孝
(桜美林大学 リベラルアーツ学群・講師)

【定員】60名(先着順)
【参加費】無料
【対象】学修成果に基づく大学教育に関心のある大学教職員、大学院生

開催報告

【参加者情報】
学外:46名(うち県外 32名)
学内:10名
合計:56名

【アンケート結果】

《満足度》

満足:8 概ね満足:12 どちらともいえない:1
やや不満足:0 不満足:0

《参考になった点》(抜粋)

  • ディプロマポリシー(DP)と既存のカリキュラム及び新設のカリキュラムをいかにして繋げるかということが、カリキュラムコーディネーターを行う上で重要なポイントになる点を再認識できた。
  • 既存のカリキュラムの中でディプロマポリシーに合わせて工夫をして授業内容を変更されている点が非常に参考になった。まずは自分の持つ授業の中で参考にしたいと思った。
  • チューニングの手法に倣ったカリキュラム検討の実例を知ることができた。また、専門分野の教育を通して全学的な教育目標にも貢献しようとされる田中先生のマインドが大変参考になった。
  • 実際の取り組みの過程の話も伺えて大変参考になった。また、教員の必要とする職員像についても伺えて良かった。
  • 田中先生が試行錯誤されながらの苦労話など、現場の体験談が聞けて良かった。また、事務職員との関わりについても触れていただき、自分にとって刺激にもなった。
  • 哲学分野の教育プログラム(カリキュラム)が作られていく生の現場が感じられて、とても興味深かった。理論も大切だが、大学教育はやはり現場が大事だな、と再確認した。

《分からなかった点・もっと説明してほしかった点》(抜粋)

  • 哲学教育カリキュラムの出口として、「最終的にどのような職に就いたのか?」という点が知りたかった。また、教育と就職には直接的な相関ないが、間接的には学生にとって、自身のメジャー選びの指針となっているように感じた。
    【田中先生からの回答】哲学を学んだ学生は必ずしも特殊な業種を志望せず、多くはシステムエンジニアや営業、小売りなどの一般的な職業に就いていきます。私自身は就職する業種ではなく、社会で活躍するためにどのような能力が身につけられるのかという観点から、学生はメジャーを選んで欲しいと考えています。
  • 多くのメジャーがある中で、1つのメジャーにどれくらいの人数を確保することが適切なのか?また、それは全てのメジャー担当者の協議で決まるものなのか?
    【田中先生からの回答】これは大学の方針、専攻の方針がありますので一概には言えないことだと思います。専攻に人数制限を課し、選抜する大学もある一方で、学生の希望を極力尊重する大学もあります。一般的に学生の人数が増えると教員の負担が増し、また教育の質保証が困難になりますので、それを学部全体でどう管理していくのかを考える必要があると思います。
  • チューニングにおいては学修成果(コンピテンシー)と学習成果(ラーニングアウトカム)の繋ぎに組織的な「エキスパートジャッジメント」が必要であると理解している。田中先生のスライドでのマッピングで、ある科目があるコンピテンシーに対して◎〇△×と判断する部分をどのような材料や手法で決定したのか、また同僚とのどのような調整があったのかについてもう少し詳しく知りたい。
    【田中先生からの回答】科目の学修成果を決める際には2つの段階から考える必要があります。第1にその科目が目標とし、もたらそうとする学修成果を同定する段階があります。これは実際にその科目を担当する教員自身のエキスパートジャッジメントに委ねれる部分です。これが本当に正しいかどうかは、他の教職員や学生にわかりやすいように学修成果を測定して示す必要があります。次に、他の科目との関連で、当該科目の位置づけを修正・改善する段階です。ここでは複数の教員が協同的にDPについて議論し、科目間の「役割分担」について取り決める必要があります。その役割分担がうまくいっているのかを確かめるために、実際に学修成果にアセスメントを実施するのは先の段階と同様です。後者の段階については、言うは易く行うは難しで、私も苦労しているところです。専任・非常勤を問わず、多くの関係する教員が気楽にかつ負担の少ない形で議論できる場が必要であると痛感しています。
  • カリキュラムマップにおける各科目とDPとの対応付け作業が「エキスパートジャッジメント」ということであったが、その内容が正直ブラックボックスの様に感じる。この部分について、教員の主観ではない対応付けの質保証の方法を知りたい。
    【田中先生からの回答】DPと科目の学修成果を対応づける際、多くの教員は「この科目ではこういう能力を育成したい」という観点からチェックがされているのが現状です。こうした対応づけに客観性を持たされるには、実際に学修成果が得られているのかアセスメントを実施し、内外にわかりやすい形で示す必要があります。
  • カリキュラムマップの説明がもう少し分かり易いと良かった。
    【田中先生からの回答】もっと科目やアセスメントの具体例を提示しながら、カリキュラムマップ活用の意義を説明できれば良かったと思います。コメントありがとうございました。
  • 学修成果と授業科目との連結についてもう少し伺いたかった。協議をどのように進めてこられたのか。
    【田中先生からの回答】教員にとって、自分が理解できないDPや求められる学修成果に合わせて、教育方法や教授内容を変えていくのはとても負担であり、簡単なことではありません。むしろ重要なのは、学修成果策定の段階から多くの教職員が参画することであり、その達成に主体性を持ってもらうことであると考えております。
  • 各科目の到達目標とDPとのつながりの強さを客観的に考える指標について、他大学での取組もうかがえれば、さらに良かったと思う。
    【田中先生からの回答】私が科目の設計の際に最も参考にしたのは米国のジェームス・マディソン大学の「倫理的推論」の科目です。そこでは「生産的で意義深い人生を送ることできるよう、教育を受け啓蒙を受けた市民」の育成という大学のミッションを複数教員で解釈し、その達成のために必要な科目として「倫理的推論」の科目を設置しました。実際そうした成果を達成しているのか、アセスメントを積極的に実施しています。こうしたプロセスについてはweb上で公開されています。
    (参考)Ethical Reasoning in Action|James Madison University
  • 今回は哲学専攻における取り組み事例だったが、組織が大きく担当する科目の単位数も多い学部・学科レベルの場合にどのようにカリキュラム構築を行っていくべきか、ご意見があればお聞かせてほしい。
    【田中先生からの回答】大きな学部単位であっても、DPから逆向きにカリキュラムを設計するという基本的なカリキュラム構築手法は適用可能であると思います。ただし、マネジメントすべき科目が多い場合、「科目群の位置づけ→科目の位置づけ」というように、カリキュラム配置のステップが増えることになり、またカリキュラムツリーなどのカリキュラムを可視化するツールの利用が重要になると思います。
  • 「哲学の知識は他の学問の知識と比して少し特殊」と途中で述べられていたが、その内実を知りたい。
    【田中先生からの回答】教授学習という観点では、哲学上の理論・知識をそのまま暗記することは、それほど重要ではありません。むしろそうした理論を積極的に疑い、その根拠を吟味し、他者に説得できるようにならなければ有効には活用できません。もちろん他の学問の知識がそういう性質を持っていないわけではないのですが、哲学はこうした点に極めて自覚的な学問です。
  • 汎用的技能の学修成果をどのように測定していくのか、という点を詳しく知りたかった。
    【田中先生からの回答】学生にプレゼンテーションやディスカッション、レポートなどの課題を与え、それらの活動を直接的に評価していくというのが一般的な評価手法になります。学生に自己評価させるような間接評価については、少なくとも哲学系科目の場合では、上手く機能しないことが分かってきています。
  • 昨今の大学教育の中では、それぞれの大学で、カリキュラムポリシー(CP)やDP、アセスメントポリシーなど、画一化された教育が当たり前に行われているが、発展的な学びの場を阻害しているのではないかと思ったりもしている。
    【田中先生からの回答】おっしゃりたいこと、非常によくわかります。DPにのみ焦点を当て、そこにばかり注力すると、ご指摘のように発展的な学びを阻害することになるかもしれません。本来、DPにうたわれる学修成果を達成することは学位授与のための最低基準であって、それにとどまらずに豊かな教授学習が行われて当然ですし、実際にそうなっていると思います。DPとの関連に加えて、そこに回収されないような学修成果についても、科目やディシプリンとしての教育目標として積極的に明示することが大事だと思います。

《その他》(抜粋)

  • 時間が少し短いように感じましたので、もう1時間程度増やしてほしい。
    【事務局からの回答】同様のご意見を複数頂いております。次回以降の開催では、開催時間を増やしたいと考えております。ご意見ありがとうございます。
  • 開催曜日は限定してほしくない。
    【事務局からの回答】ご意見ありがとうございます。企画段階においては開催曜日の固定は行っておりません。ただ、講師の都合上、開催曜日が複数の研修会で重なってしまう場合もございます。その点、ご容赦ください。
  • 博多駅の方で開催してほしい。
    【事務局からの回答】ご意見ありがとうございます。これまでの参加者動向を検討した上、遠方からの参加者が多く見込まれる研修会に関しては、博多駅付近での開催を考えております。
PAGE TOP