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九州大学 基幹教育院 次世代型大学教育開発センター > 【活動報告1】新部門の活動が始まりました!

【活動報告1】新部門の活動が始まりました!

 

みなさん、はじめまして。

 

私たちは公益財団法人上廣倫理財団からの助成を受けて、2026年4月より「未来社会倫理教育研究部門」として活動を開始しました(5月には写真の通り部門の看板も設置しました)。具体的な成果をお示しできるのはまだ先の話ですが、そこにいたるまでの部門の日々の活動についてお知らせする場として、今後定期的にここで活動報告を行なっていく予定です。
最初の記事として、新部門の簡単な紹介と、今後の活動の方向性について書いてみます。

 

まずは、私たちが部門として取り組んでいる課題やその背景について、簡単に説明します。

 

倫理学は、私たち人間のような主体性をもった存在やその共同体のあるべき姿を探究する学問です。一方で、大規模言語モデルに基づいた現代的AIをはじめとして、これまでになかった知的営みや生産・創造活動を可能にする新しい技術は、人間社会のあり方そのものを多様化し、急速に変化させています。新技術によって様々な可能性が開かれたこの時代において、私たちはどのような未来を選択していくべきなのでしょうか。

 

未来社会倫理教育研究部門では、種々の新技術の発展に伴う社会変化に応じて、新しい時代にふさわしい倫理教育の研究・開発・提案に取り組んでいます。これからの社会とそれを構成する各個人のあり方の新しい規範を明らかにするため、倫理学の専門的視点から、新技術が生み出す多様な問題圏を横断する学際的研究を押し進めています。

 

私たちは、こうした学術研究の成果を「高等教育における倫理教育」という形で社会に還元するために、2つの新しい倫理教育科目の開発に取り組んでいます。以下では、その開発責任者である佐竹佑介助教と丸山望実助教から、各科目についてそれぞれ紹介します。

 

 

 

新規開発科目1:VR思考実験を活用した体験型倫理科目

担当:佐竹佑介

 

 

生成AIやVRといった人間の認知に関わる新技術は、高等教育の方法を大きく変える可能性を秘めています。昨今では、世界中の高等教育機関で、授業改善や学習支援を目的とした生成AIの教育的導入が研究・実践されています。また、考古学における歴史的遺跡の探索可能な3Dモデルや危険物質を用いた化学実験、外科手術等の体験型シミュレーションなど、様々な分野で、VR技術を活用した教育方法が試行されています。

 

本部門では、こうした新技術の教育的有用性に着目し、VR思考実験を活用した新しい形の倫理科目を開発しています。
行為の正しさや行為者の徳といった抽象的対象を扱う倫理学では、自然科学のように、経験的証拠によって理論を検証することはできません。むしろそこでは、我々自身の道徳判断の背景にある道徳的直観が、探究の重要な手がかりになります。
これをテストするのが、思考実験です。思考実験では、偶発的要因を排除した反事実的状況を想定し、そこでの判断を問うことで、被験者が自らの倫理的コミットメントを自覚的に捉え直すことを促します。直観を試すための「実験」は、観察可能な事実を対象とする科学「実験」とは全く性質の異なるものなのです。

 

そんな思考実験が、VR世界で実際に体験できたら、新しい倫理教育の道が開かれるのではないか? このような問いから、本科目の着想は生まれました。
VR思考実験は、第一人者である米国Santa Clara UniversityのErick Ramirez教授を筆頭に、近年、急速に理論・応用研究が発展しています。先行研究では、仮想的シナリオを主観的に経験することで得られる没入感・リアリティやそれによって得られる共感の補助など、VR思考実験の様々な効用が明らかにされています。
これらの専門的知見を背景に、本科目では、倫理的思考実験を仮想世界で実際に体験することで、リアルな倫理的直観に基づいた倫理学習を可能にします。

 

VR体験によって得られる生々しい倫理的直観は、それを批判的に検討する倫理学の学習において、探究上の試金石になります。これを道しるべに、自律的探究を推進し、クラス内議論で発展させていくことで、既存の倫理課題への理解を深めるだけでなく、倫理学的に考えることそのものを学習・実践することができます。VR技術を活かした教育方法により、倫理学の文脈で、「自らの頭で考える」という学びの基礎を育む、新しい講座デザインを構想しています。

 

 

 

新規開発科目2:「AI時代の生き方」に関する講義+対話型倫理科目

担当:丸山望実

 

 

AI技術の発展によって、私たちの社会は様々な仕方で便利になっています。技術を利用したより効果的な授業方法が開発されたり、生成AIを用いればすぐに簡単に調べものをしたりすることができるようになっています。一人暮らしを始めたばかりの人であれば、AIと会話して友達になっているかもしれません。

 

しかし、AI技術は様々な課題を私たちの社会に突き付けてもいます。例えば、大学生活に直接かかわるものだけでも、レポート作成にAIを用いていいのか、SNSでフェイクニュースに騙されてしまわないか、画像生成AIを不適切に利用していないかなど、多くの問題を挙げることができます。そしてこれらの課題は、卒論の研究や就職活動など、今後の生活の様々な場面でも直面することになるはずです。
AIに「できること」が増えている現代社会では、それを本当に「やってもいいのか?」と立ち止まって考える必要があります。この授業では「できるけどやってもいいのか?」を考えるために必要な倫理学の知識を学び、参加者全員で考えていくことが目標です。

 

この授業で扱おうと思っているテーマは多岐にわたります。

・大学での学習におけるAIとの付き合い方はどうあるべきか?

・AI時代のクリエイターの価値はどこにあるのか?

・AIが仕事をするようになると、私たちの生活はどうなるのか?

・AIが様々な判断にかかわるようになると、その責任はどうなるのか?

・私たちは、AIにケアされたいか?

もちろん、これ以外にも扱われるべきテーマはたくさんあります。現在進行形で発展しているAI技術で「できること」が増えると、新しい「やってもいいのか?」も現れてくるでしょう。そのため、授業内容も「一度作ればそれで終わり」というわけではなく、時代や社会の変化にあわせて随時アップデートしていく予定です。

 

本科目の授業形態は基本的に、従来の大学教育でも一般的だった「講義型」を想定しています。
ただし、教室で一斉に受講する「対面型」だけではなく、動画視聴によってフレキシブルに学習できる「オンデマンド型」にも対応できるようにしたいと考えています。
というのも、本科目のテーマである「AI時代の生き方」は、私たちの社会全体にとっても非常に重要なものであるからです。私たちが行なう科目開発では、オンデマンド型の授業も用意することによって、大学内外のより多くの様々な方たちに学びの機会を提供していくことも重要な目標としています。

 

ただもしかすると、特にオンデマンド型の授業では、より一方向的な講義に終始してしまうのではないか、という心配があるかもしれません。対面型の授業に関しては、講義内容をもとにして受講者同士で議論を行なうといった対話的要素を加える予定ですが、オンデマンド型授業でも、同様の活動を実現するための方法を模索したいと考えています(その際には、新たな技術を利用して自身の考えをまとめたり、対話を行なう環境を用意することも必要になるでしょう)。
この授業を通じて、単に「AIの倫理」に関する知識を得るだけでなく、「自身の考えを表現し伝える力」や、さらには「AI技術との適切な付き合い方を自ら考える力」を身に着けてもらいたいと思っています。

 

 

 

………

 

 

 

最初の記事はいかがだったでしょうか。私たちが計画している2つの新科目について簡単に紹介させていただきましたが、具体的な中身はこれから作っていくという段階です。様々なご意見やアドバイスをいただければ幸いです。

本部門のWebサイトでは、今後も科目開発の進展に合わせて、逐次、報告記事をアップロードしていく予定です!

引き続き、未来社会倫理教育研究部門の活動にぜひご注目ください。

 

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