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九州大学 基幹教育院 次世代型大学教育開発センター > 【開催報告】カリキュラム設計担当者養成プログラム「教育プログラムにおけるルーブリック導入の方法、課題と組織的対応」

【開催報告】カリキュラム設計担当者養成プログラム「教育プログラムにおけるルーブリック導入の方法、課題と組織的対応」

 令和4年7月29日(金)、カリキュラム設計担当者養成プログラム「教育プログラムにおけるルーブリック導入の方法、課題と組織的対応」を開催致しました。

 学生の学習到達度を計測する手段としてルーブリックの活用が注目されています。これまで本拠点の研修会でもルーブリック作成に関するFDを実施し、個別の授業におけるルーブリックに焦点をあててきました。一方で、全学的にルーブリックの導入を進める動きもあります。個々の教員が自身の授業に関するルーブリック作成を行うのとは異なり、教育プログラムレベルでのルーブリック導入は、組織マネジメントとカリキュラムマネジメント両方の視点が必要となり、困難さが増大します。教育プログラムレベルでルーブリックを導入する際にどのような課題が生じ、それに対しどのように組織的対応をとっていくのかという点が大変重要になると思われます。
 そこで今回の研修では、教育プログラムにおけるルーブリック導入の方法、課題と組織的対応について、関沢和泉教授(東日本国際大学 高等教育研究開発センター)にご登壇いただき、導入事例をご紹介いただきました。さらに、同じように大学でルーブリック導入を進めている榊原暢久教授(芝浦工業大学 教育イノベーション推進センター)にもコメンテーターとしてご登壇いただき、両大学の実践を踏まえた議論を通して理解を深めました。

 

┃開催概要

【日時】令和4年7月29日(金)10:00~12:00
【会場】Zoomによるオンライン開催
【会費】無料
【対象】 ルーブリックの活用に興味のある大学教職員等

【講師】 関沢和泉 教授(東日本国際大学 高等教育研究開発センター 副センター長)

【コメンテーター】 榊原暢久 教授(芝浦工業大学 教育イノベーション推進センター)

【プログラム】
 ・ご講演「教育プログラムにおけるルーブリック導入:東日本国際大学を事例として」(関沢和泉)
 ・コメンテーター によるディスカッション(榊原暢久)
 ・全体からの質疑応答・ディスカッション

プログラムの内容等については開催案内をご覧ください。

 

┃開催報告

【参加者情報】
学外:71名
学内:10名
合計:81名

 

〇アンケート質問への講師からの回答(※いただいた質問を一部編集して掲載しております)

質問1 教学マネジメントに関して、ここまで大規模な取り組みを始めた理由を知りたいです。

回答1 現在、教学マネジメント(教育の内部質保証)を実施する理由として、一般的には、一方に認証評価等への対応といった外的な理由、他方に実際に学内に存在している教育の課題の解決(国家資格の取得割合であったり、中退率であったり、大学院への進学率であったり、その課題は専門分野や機関により異なるでしょうが)という内的な理由の二つがあるはずです。
 外的な理由への対応としては、たしかに最小の規模で行うという対応も考えられると思います。他方で、教育改善のサイクルを実装するということは、どのようなかたちであれ、それなりの労力と資源を要することです。そのように労力・資源を割くのであれば、実際の個々の授業科目の現場での改善・改良が、そのまま全体での改善・改良につながるような仕組みを構築することで、タテマエとしての改善サイクルと現場が分裂してしまうような仕組みを構築するよりも、より意味のあることをできるのではないか、より具体的には、現場の過剰なマイクロマネジメントに陥ることなく、創意工夫の余地があるミクロとメゾ(ミドル)、マクロを接続するような仕組みが作れないか、というのが背景にある課題意識です。

 

質問2 東日本国際大学の事例で説明された、標準化・目標の明確化→(教員も学生も)多くの人ができるようになった→成績が上がったというサイクルは、メリットが多いが、それでも切り落とされたものはないのか、はみ出た部分は取り込み可能なのか。

回答2 言い換えると、世界的なニューパブリックマネジメントの潮流の中で要請されているアカウンタビリティの名のもと、学修の到達目標を測定可能なもののみに限定し(測定可能な表現にのみ落とし込み)、それによって改善のサイクルが動いていることを可視化することを可能とするということは、そうでないものを削り落とすことでもあるのではないか、という問となると思います。
 ひとつの方策としては、達成目標(各科目で測定する)・向上目標(プログラム中で傾向として把握する)・体験目標(卒業生調査等で質的に調査)といった目標の分類を、それぞれを測定する時間スケールの違いと共に導入する、それによってすくなくとも在学中の測定を行わないような長期的な目標(ねがい)を明示的に組み込むということはありうるでしょう。あるいは、より強い表現で言い換えると、NPM的な改善サイクルが短い期間での改善を求めがちなものであることもあり、「はみ出た部分」については、それを「取り込む」ことで結果として短期的改善サイクルの対象としてしまわないように、「マネジメントの対象としない領域として明示的に確保しておく」という強い主張でも良いかもしれません(そうした分類・領域を(再)導入することについて、高等教育開発者の一部には、以前の教育の成果に責任を取らない状態に戻ることではないかといった反対もあるようですが)。
 報告中にもお話した通り、もともと福祉系の学部では、狭義の「成績」に収まらないかたちで身につけてほしいことをいかに学生と共有できるかということが目的でした。その意味ではご質問のような課題への応答としてICEモデルの導入を進めた側面があります。そのため、実は議論のプロセスのなかでは、ICEで表現された目標については得点化の対象とはせず、狭義の成績とは別に扱うという案もありました。

 

質問3 取り組みの推進について学内(とくに教育の現場に近い学部長や教務委員長等)で理解が得られない場合、大学全体でどのようにアプローチしていくことが良いか、事例・アドバイスがありましたら、ご教示いただけますでしょうか。

回答3 第一に、まずは改善・改革プロセスを動かすということは一度横に置き、教授会や教務委員会の場にデータ(の分析結果)を持ち込んで、ただ見てもらうという機会を増やすことでしょうか。入学時の成績の経年変化、卒業までのGPAの履歴の経年変化(カリキュラムの穴の発見方法の一つとして)、就職先へのアンケート結果、資格取得や希望する就職先への就職率等のデータの経年変化等々のデータを頻繁に目にしているうちに、取り組みの必要性を感じる教員は増えてくるはずです。また、もし学部間の関係が許せばですが、学部やコースごとの状況の違い(卒業までのGPAや取得単位の違い程度でも)をお互いに見るようなFDができると、自分たちの教育の、プログラムとしての特性が見えてきて、教育プログラムの一端を担っているという意識が生まれてくるはずです(ただし、それによって自分の学部が責められていると感じてしまわれかねない段階であれば、避けた方が良いでしょう)。
 第二に、学生を巻き込んでいくという手があります。各教員の側からは、自分の授業科目周辺しか直接的には目に入らないわけですが、学生はプログラム(カリキュラム)全体を体験していくわけです。プログラムの体験がどのようなものであるのか、学生から声を聴く場を設定し、そこで一緒にデータを見ながら語ってもらう(たとえば2年次にGPAが下がる学生が多い結果が出ていたとしたら、それを見ながら、学生の側がそこでどのような体験をしていたかを話してもらう)ということをしていくと、プログラムレベルの存在とそこで学生が何を経験しているかが具体的なものとして感じられてくるのではないでしょうか。本学でも学生と一緒に実施するそうしたFDは、教員からの反応が強くありました。
 第三に、とくに学部長や教務委員長といった立場では、定型的な通年業務をきちんと回すということが立場的にも重要な職務となる側面があるため、一方でそうした業務エフォートの中に/かたわらに、改善・改革のサイクルについて考えてみる余地を人事・業務マネジメント的に作り出すことも必要なのかもしれません。具体的には改善・改革への関与が主となるような教務副委員長等を設定する(そうしたことに興味を持ち、引き受けてくれる教員がいる必要がありますが)といったことができるかもしれません。

 

質問4 もう少し「組織マネジメントとカリキュラムマネジメント」の具体的な事例や論点をお聞きしたかった

回答4 今回はプログラムレベルへのルーブリックの導入ということに主眼をおいたため、そうした側面が弱くなってしまいました。
ポイントとしては、他の回答とも重なってしまいますが、一方で機関としてのマネジメントのサイクルにおいてアセスメントを明確に位置付け、アセスメントポリシーやアセスメントプランによって、IRで得られたデータをどのタイミングでどこの部署に戻し、どのように活用できるようにするかを明確にし、場合によっては中期計画と結びつけつつ、他方で、その実際の活用において、教育プログラムに実際にかかわる人たちの「同僚性」による判断にゆだねる範囲をマネジメント上に明確に位置づけ確保しておくことが、実は改善サイクルを活性化し、実質化するために重要ではないかと考えています(実例については、茨城大学の嶌田先生が多く報告・提言されています)。
 深堀先生が学位プログラムの設計・運用において重視・強調されるエキスパート・ジャッジメントの涵養は、おそらく一定の同僚性の確保なしには維持できないものであり、その意味でも、機関のマネジメントの視点からは、同僚性をどのように機能させるのか(担保しつつ組み込むのか)がポイントになると思います。

 

〇参考になった内容(抜粋)

  • DP/学位プログラム/科目/課題、を繋ぐためにルーブリックが有効であると感じました。
  • 今までルーブリックを「評価」でしか見てなかったが、授業デザインの計画からルーブリックを使っていきたい。
  • ルーブリックの根源的な役割と、ICEモデルの仕組みについて理解できました。プログラムレベルのルーブリック策定を今後行う予定なので、参考にさせていただきます。
  • ICEモデル及びICE動詞データベースを活用したルーブリックの標準化については非常に参考になりました。
  • 評価のICEモデルは非常に参考になりました。現在、それぞれの学問分野で学びをいかに視覚化するのか、それにルーブリック評価がどれぐらい使用可能なのか、わからない状態であったので、今回のことでいろいろと気づきがありました。
  • ICEルーブリックを構築するだけではなく、その学修成果を可視化ができている点が精緻な設計であることは大変参考になり、本学の教育課程編成においてどのように取り入れられるのか検討をしたいと思います。
  • 我々の領域(薬学)においては「目標を記す際に動詞を重視する」ことが多い(多かった)ので、ICEモデルは腑に落ちた感があります。採り入れてみたい。
  • 取り組んだ順序や、支援ツールなどです。周囲を巻き込む際に役立ちそうです。

 

 

 

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