はじめに研究理念と背景
このページでは、本研究室がどのような問題意識から出発し、 何を研究の中心課題としているのか、その理念的背景を説明します。 具体的な研究テーマや研究の柱については、研究および研究内容のページをご覧ください。
出発点
本研究室の出発点には、ヒトの感覚・認知・情動、そして思考と意思決定を、 実験的かつ多角的に理解したいという関心があります。 脳は人間活動の根幹を担い、学問や文化、教育や社会制度の前提にも関わる存在ですが、 その働きにはなお多くの未解明な部分が残されています。
私たちは、脳を単に「現在の状態を記述する対象」として捉えるのではなく、 人がどのように考え、何に動機づけられ、どのように未来へ向かうのかを理解するための基盤として捉えています。
未来脳科学という考え方
未来脳科学(Future Brain Science)は、 脳を理解する実験科学と、未来の視点から現在を再設計する思考とを接続する、 本研究室の中核的な構想です。
ここでいう「未来」は、単なる予測の対象ではありません。 未来の利益や将来世代の視点を現在の意思決定の中にどう導入するか、 そのとき人の思考や動機づけがどのように変化するのかという問題に向き合うための視点です。
この発想は、現在の効率や短期的利益のみに依存しない意思決定のあり方を考える フューチャー・デザインの考え方と深く関わっています。 本研究室では、この未来志向的な思考枠組みを脳科学と接続し、 人間の思考・意思決定・創造性をより深く理解しようとしています。
現在を理解するだけでなく、現在を再設計するために
私たちは、脳を「現在を理解する対象」としてのみならず、 「未来の視点を導入し、現在を再設計するための基盤」 として捉えます。 感性・認知・意思決定・創造性といった脳の働きを多角的に探究し、 AI、デザイン、社会制度との横断的統合を通じて、 人間と社会の持続可能な未来像を構想することを目指しています。
そのため本研究室では、脳科学の知見を閉じた実験室の中にとどめるのではなく、 教育、産業、社会設計、制度設計へと接続可能なものとして位置づけています。 脳の働きを知ることは、それ自体が目的であると同時に、 よりよい思考と意思決定の条件を探るための基盤でもあります。
動機づけをめぐる関心
とりわけ私たちが注目しているのは、 未来の利益を現在の意思決定に組み込む際に生じる 内発的動機づけの神経基盤です。
ここでいう動機づけとは、一時的な高揚や外的報酬への反応ではなく、 持続可能で方向づけられた行動を生み出す安定した動機づけ状態を指します。 私たちは、その神経機構を理解し、必要に応じて適切に増幅・調整する方法を探究します。
これは個人の行動変容だけの問題ではありません。 教育や組織運営、制度設計においても、人がどのような条件のもとで 長期的な視点を持ち、自ら考え、主体的に動くのかという問いは重要です。 本研究室では、その心理的・神経的基盤を明らかにすることを目指しています。
フィールド脳科学との接続
本研究室のもう一つの重要な特徴は、 実生活環境における脳活動の計測と分析を重視していることです。 温熱環境や空間素材、匂い、焚き火など、 現実の体験が思考や感情にどのような影響を与えるのかを、 実環境に近い条件で検証してきました。
このようなアプローチは、脳科学を現実の人間活動に接続するうえで不可欠です。 私たちは、厳密な実験室研究を重視しつつも、 そこで得られた知見を現実の場面でどう捉え直すかを常に意識しています。 その意味で、フィールド脳科学は未来脳科学を支える重要な基盤の一つです。
多様な研究の上に立つ構想
未来脳科学は、従来型の実験脳科学を置き換えるものではありません。 感覚・認知・感性評価などの基礎的な研究の積み重ねがあってこそ、 人間の思考や意思決定をより広い視野で理解することが可能になります。
本研究室では、学生それぞれの関心や研究テーマを尊重し、 基礎研究から応用研究まで多様なテーマに取り組んでいます。 そうした多様な研究の蓄積こそが、 未来脳科学という構想を支える土台であると考えています。
研究ページへ
以上の理念的背景をふまえ、本研究室では、 どのような問いを立て、どのような研究を展開しているのかを研究ページで紹介しています。 さらに、主な研究テーマや具体的な研究の柱については研究内容をご覧ください。
初版公開: 2026年03月17日
最終更新: 2026年04月15日